dTV、Hulu、Amazon、TSUTAYA…レンタルビデオ黎明期を経て新しい時代へ。
今やレンタルビデオ屋は、TSUTAYAとGEOで全国のレンタル店の過半数を占め、それもすっかりネットに押され、その役割を終えようとしています。
そんなレンタルビデオ屋も、そもそもは街の小さなショップばかりで、しかもいかがわしい空気が漂い、今のようにファミリーで入れるような店ではありませんでした。
いまから30年前、1987年頃のVHSの映画のソフトは1本1万2千円が相場。仕入れ値でも10%割引程度で、1万円前後かかりました。ところがアダルトビデオは、メーカーにもよりますが、定価2万円のソフトでも、3〜4千円で仕入れることができました。
回転率もアダルトビデオの方が圧倒的に良いので、どうしてもアダルトビデオがメインになります。ところがそうなるとアダルトショップとなって、場所によっては営業許可が取れなくなるので、表向きは映画の一般作品を並べることになります。要するに、ほとんどがアダルトビデオレンタルショップだったわけです。
ビデオデッキの普及とともにレンタルビデオ店が増えてくると、映画メインの大型店舗も登場しはじめます。
明るいフロアに、ほとんどが映画のコーナー。アダルトは今のTSUTAYAのようにカーテンの奥。
ところが、これがなかなか儲からない。
1万円のビデオのレンタル料が500円。20回借りてもらわないと減価償却できません。
在庫のビデオをどれだけ借りてもらえるかというのが勝負なのですが、「スターウォーズ」「ジョーズ」「ロッキー」といったビッグタイトルですら、アダルトビデオに比べたら、回転率が圧倒的に低い。
ところがレンタルビデオ業界に、2つの神風が吹きます。
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VHSの低価格化
1987年に公開された、ケヴィン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、ロバート・デ・ニーロという豪華キャストで製作された大ヒット映画「アンタッチャブル」のVHSが、翌1988年に、3,980円で発売されたのです。
新作映画の仕入れコストが、1/3にまで圧縮されるようになりました。
ところがその頃のハリウッドは、ちょっと低迷期。「トップガン」「プラトーン」といった大ヒット作もありましたが、エディー・マーフィー全盛の時代「ビバリーヒルズ・コップ」にしても「ゴールデン・チャイルド」にしても「星の王子 ニューヨークへ行く」にしても、そこそこヒットしたものの、たいして面白くない。
新作コーナーには、パッとしないタイトルが並ぶことに。
ところがそこに、2つ目の神風が吹きます…ちょっと不謹慎ではあるのですが、ある意味「神」が吹かせた風です。
昭和天皇崩御
1989年1月7日。
私が社会人になったちょうど1週間目。
テレビはバラエティ番組からCMまで自粛モードに入り、連日、天皇陛下のニュースばかり。
そこで脚光を浴びたのがレンタルビデオ屋。
あまりにテレビがつまらないので、今までビデオを借りたことがなかったような人まで、誰もがレンタルビデオ屋に殺到しました。
私がバイトしていたレンタルビデオ屋では、平日平均5万円くらいだった1日の売上が23万円にまで伸びて、在庫がほとんどなくなってしまいました。
それ以来レンタルビデオ屋は市民権を得ることになり、誰もが気軽に利用するお店になったわけです。
レンタルビデオ店を支えた、隠れた人気作品
市民権を得る前に、レンタルビデオ店を支えていたのは、圧倒的にアダルトビデオ、そして定番のビッグタイトルが続くのですが、他にも回転率の良いジャンルがありました。
それは、B級青春ラブコメディ。
「キャントバイミーラブ」「セイエニシング」「ワン・モア・タイム」「メイド・イン・ヘブン」といった、ロードショーにはかからなかったけれど良質な人気作品がいくつかありました。その中でも定番だったのが、ジョン・ヒューズ監督の作品。
私がバイトをしていたレンタルビデオ屋でも、ジョン・ヒューズ監督一連の青春ラブコメは、コンスタントに貸し出しされていました。
アマゾン・プライム・ビデオやiTunes Movie、huluといった動画視聴サービスが主流の今、それぞれに無料配信やオリジナルコンテンツ制作といった、サービスの差別化を図っています。TSUTAYAでは、「発掘良品」という謳い文句で、過去に遡って名画を紹介していますが、ネットを通じて映画をはじめとする動画コンテンツが氾濫する中で、本当の映画好きを唸らせる企画はなかなか難しいようです。
それこそジョン・ヒューズ監督特集を組まないのが、どうしても不思議でなりません。
今でも色あせることのない、良品ばかりだと思うのですが。