絶対に売れるコピーなんて書けない。通販広告はコピーライターを殺す。
通信販売の広告も、もちろんコピーライターの仕事です。
今までに、「ムトウ」や「ディノス」「暮らしのデザイン」といった通販カタログから、日本文化センター、二光といった大手通販会社の広告、化粧品、サプリメント、本マグロ、幸せを招く黄色い財布、珍しいものでは前方後円墳から仏壇に置くお鈴(りん)まで、さまざまな通販広告を書いてきました。
そこで問題なのが、通信販売のコピーは、どんなに上手いコピーを書こうが、下手過ぎて文法すら間違っていようが、結局売れてなんぼということ。
クライアントによっては成功報酬で払うとか、本当に売れるコピーを書いてくれといってきますが、コピーライターとしていいたくはないのですけれど、それは無茶というものです。
「売れるコピーの書き方」的なHow To本や情報商材も見かけますが、あれって単に必要条件を提示しているだけで、十分条件ではありません。
商品×営業力(販売手段)×広告、そしてタイミングがうまくハマって、はじめて成果が出るわけで、もちろんそれを踏まえてキャッチコピーを書きはしますが、すべての商品が、狙い通りに売れるわけがありません。
「ディノス」や「暮らしのデザイン」といった通販カタログの仕事をやっていた頃は、通信販売全盛で、商品力も購買力も高かったので、とりあえずそれなりに売れていました。
が、セシールもニッセンも身売りしたりして、完全にネット通販に食われてしまった現在、紙媒体のカタログ通販は終焉を迎えつつあります。
もう、売れないんです。
残っているのはニッチなニーズを狙った石けんや洗剤や化粧品やサプリや健康器具のたぐいがほとんど。
そういった商品のコピーライティングは、インターネットの検索キーワードよろしく、複数の表現を使って、複数の媒体に広告を出して、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、商品が売れるまで、ターゲットに届くコピーを模索し続けていくというのがセオリー。
また、商品を生産する前に広告だけを出稿し、反響があれば生産を始めるドライテストなんていう、グレーゾーンぎりぎりアウトな方法で広告効果を測定することも、当たり前のように行われています。
さらに、ターゲットに刺さりそうなキーワードを盛り込むために、後から商品に特徴や機能を足すことも。
例えば洗顔フォームを販売していて、他社の商品が新成分の酵素を配合してヒットしたら、即酵素を足して、コピーで「新成分の酵素配合」と追随したり、テレビでヒアルロン酸の効果を特集したらすぐにヒアルロン酸を配合して、「テレビで話題のヒアルロン酸配合」とうたったり、流行りに合わせて商品とコピーをセットで開発するというのも良くある手法です。
で、これを突き詰めていくとどうなるかというと、結局のところ、売れる商品を開発することが大切であって、それさえ徹底すれば、職業コピーライターはいらない。
新しい切り口なんて求められていないわけですから。
以前ブログに書きましたが、糸井重里は、売れるに決まっている良いものをみつけて売る手段を考えればものは売れる。
よくないものをコピーで売る必要はないといって、コピーライターを辞めてしまいました。
その通りなんです。
商品と広告がつねに一体となっている通販広告は、新しいアイデアでものを売るというコピーライターのアイデンティティを破壊します。
さらにモノを売るための仕組みも、すでに枠組が決まっているので、コピーライターの活躍の場がまったくない。
価格訴求なのか、機能訴求なのか、成分訴求なのか、メリット訴求なのか、プレゼントで釣るのか、テンプレのパターンの中で、刺さるまでコピーを変えていく作業。
で、結局刺さる言葉が、ヒアルロン酸!だったり、半額!だったり、三本セットでこの価格! だったりするわけで、全然やりがいがありません。
さんざんお世話になったのですが、もう言葉だけでは売れない通販広告に、コピーライターとして関わることはないと思います。