横浜メリーさんは、戦後ヨコハマを伝える、昭和最後の風景でした。
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伝説の横浜“メリーさん”は実在していた。
1960年頃から1995年まで、真っ白なドレスに真っ白な化粧で、横浜、関内・馬車道・伊勢佐木町界隈に出没していた老婆。
といっても1960年頃はまだ老婆ではなく、話題にのぼりはじめたのは、80年代頃から。
その正体は娼婦〈パンパン〉。
1921年に、岡山県で生まれ、地元の国鉄マンと結婚後、2年くらいで離婚。軍需工場で勤労奉仕、兵庫・西宮で女中奉公の後、横須賀へ。
1950年代、横須賀で米軍将校の愛人から米兵相手の娼婦へと身をやつし、40歳になろうかという1960年頃、横浜・伊勢佐木町にたどり着きます。
それから35年にわたり、伊勢佐木町界隈で娼婦を続けているうちに、彼女はすっかり横浜に馴染み、その風景となっていきました。
私が見た、横浜メリー。
私も実際に、平成のはじめ、伊勢佐木町で飲み歩いていた頃に、よく見かけています。
伊勢佐木モールはもちろん、尾上町にあった明治屋の前を大きな紙袋をぶら下げてヨロヨロと歩いていたり、馬車道、福富町、いたるところで普通にウロウロしているのを見かけることができました。
なので、伝説のように語られていたものの目撃談に事欠くことはなく、知り合いの女性は伊勢佐木町の有隣堂のトイレで寝ているのを目撃していたり、私のまわりにいた人たちは、みんなメリーさんを目撃しています。
ちなみに晩年は住むところを持たず、家財道具一式が入った大きな紙袋をいつもぶら下げて歩いていました。
メリーさんは本当に娼婦だったのか。
ところで、白塗りの老婆が本当に娼婦として商売していたのか・・・
という疑問が湧いてくるわけですが、私が見かけていた頃、夜のメリーさんは、大抵福富町にあるGMビルの1階、エレベーターの前に立って、客引きをしていました。
当時、上司と一緒にGMビルのスナックに行ったことがあるのですが、エレベーターの前で、メリーさんが上司の袖をつかんで、「遊んで行かない?」と声をかけてきたのを、私はその横で目撃しています。
現在の横浜は、MM21に象徴される最先端の街であり、異国情緒漂う有数の観光地であり、世界に開かれた港町であり、元町に象徴されるファッションの発信地であり、華やかなイメージで覆われています。
ですが、そんな表向きの顔の裏には、戦後の闇市をルーツとした野毛があり、寿町という山谷・西成に次ぐドヤ街があり、黄金町のガード下にはチョンの間という赤線地帯があり、大岡川とハイランドの間の末吉町の通りでは不法滞在の外国人とゲイが春を売り、韓国人とヤクザだらけの風俗街・福富町のネオンが目を眩せる・・・深い闇の中から抜け出すことができない、負のオーラをまとった人たちの生活圏が混在しています。
今では野毛はすっかり若返りを見せ、チョンの間も売春婦も一掃され、戦後から続く横浜の裏歴史の影はすっかり薄まってしまいましたが、メリーさんが伝説となっていったのは、昭和の終わりから平成の初め頃。
本来なら、頭のおかしい娼婦として、好奇の眼差しだけで見られてしかるべき。
なのですが、バブル景気や横浜博の開催で未来都市へと変貌していく横浜において、メリーさんは、横浜の影を象徴する、最後の生き証人となったのです。
メリーさんはどこへ行った?
1995年、メリーさんは突然姿を消します。
当然亡くなったものと思っていたのですが、実は、メリーさんは故郷に戻り、老人ホームで余生を過ごしていました。
老人ホームでは、好きな絵を描いて静かに暮らしていたそうです。
そして平成17年1月17日、心臓発作で死去。
昭和はすっかり遠くに過ぎ去っていました。
PASS―ハマのメリーさん (#2) (森の観測 記憶へ―記憶へ (4)) /森 日出夫 (著)
ヨコハマメリー [DVD] 永登元次郎 (出演), 五大路子 (出演), 中村高寛 (監督)
参考サイト:はまれぽ.com、「消えた娼婦たち」の事情
映画「ヨコハマメリー」の再上映もあって、何故か最近、メリーさんの話題が再燃しています。平成も終わろうとしている今、昭和の名残はすっかり消去されてしまいましたが、“昭和”の象徴は“戦争”です。
メリーさんも、時代をたくましく生き抜きながらも身をやつしていった、戦争犠牲者のひとり。少しでも戦争の記憶・昭和の記憶を語り継いでいくことで、平成の次の新しい年号が、孫・子の時代に、再び“戦争”を象徴することにならないように、願うばかりです。
メリーさんを扱った新刊、発売中です。
Comment
はじめまして。
ノンフィクション作家の檀原と申します。
参考サイトという形で拙ブログ【「消えた娼婦たち」の事情】に言及して下さり、ありがとうございます。
一つお願いがあります。
ついでにメリーさんや「初代メリーさん」と呼ばれたメリケンお浜などを扱った拙著『消えた横浜娼婦たち』(データハウス 2009年発売)の画像も取り上げて頂けませんか?
本自体は絶版になっていますが、横浜市内の複数の図書館で御覧いただけます。
またAmazonのKindleからメリーさんを扱った章だけ電書化しています。
▼
https://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00BFG8BKY/
メリーさんに関しては拙著が断トツで詳しいです。
メリーさんの故郷にも二回行き、親族からも話を聞きました。
「なぜメリーという通り名だったのか?」
「なぜ故郷を出たのか?」←リンクされてますね
「そもそもなぜ有名になったのか?」
という部分も含めてかなり掘り下げました。
上記書籍には書きませんでしたが、「メリーさんを買ったことがある」という男性とも会いました(たぶん彼のことは中村監督も知らないのでは)。
そんなこんなでご検討頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。
檀原様
こちらこそ、色々と参考にさせていただき、ありがとうございます。
もったいないオファーもありがとうございます。
取り急ぎAmazonにリンクを貼らさせていただきました。
『消えた横浜娼婦たち』の書籍と
Kindle版も入手させていただきました。
読ませていただいた後にあらためて、
ブログにて紹介させていただきたいと思います。
また、90年代に体験した大岡川の向こう側とこっち側も、
いずれブログに書こうと思っています。
『消えた横浜娼婦たち』も参考にさせていただき、
そちらでも紹介させていただきたいと思います。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。