障害者を営利目的に利用した日本パラリンピック株式会社は善か悪か。
施設の利用代からコーチ費用、競技にかかる道具まで、パラリンピックの選手は、ほとんど自費でまかなっています。もちろんパラリンピック会場への移動も自費。オリンピックに比べてパラリンピックは、経済的にかなり困窮しているのが現状です。
現在では、障害者スポーツを支援している公益財団法人障害者スポーツ協会と、その内部組織である日本パラリンピック委員会が支援を呼びかけていますが、営利活動はできません。資金援助のオファーを受け付けるだけ。
・・・さかのぼること十数年、シドニーオリンピックの頃。
日本障害者スポーツ協会の責任者だった方と、高校・東大時代に同級生だった、日本パラリンピック株式会社の代表が、障害者スポーツ運営の窮状を見かね、資金集めのための営利団体として立ち上げたのが日本パラリンピック株式会社です。
私と日本パラリンピック株式会社との関わりは、当時勤めていた広告代理店にて、発行:財団法人障害者スポーツ協会・制作:日本パラリンピック株式会社、「パラリンピックニュース」のデザインと印刷の仕事を受けていて、その校正とデザインチェックを担当していたことに始まります。
当初、「パラリンピックニュース」には一切広告がなく、購読費も100円とはなっていましたが、きちんと徴収している様子もなく、利益を生まないボランティア状態で制作していました。
ニュースの記事を書いている記者さんたちも、手弁当で取材に行っては、社会的使命として記事を書いていました。
このままでは「障害者スポーツの資金集め」がなかなかできない。そこでパラリンピックの看板と、広告代理店の機能を融合させ、日本パラリンピック株式会社を、広告代理店がグループ会社化。営業力とクリエイティブ力を注ぎ込むことで、そこから営利目的の活動が加速化していきます。
1 パラリンピック支援のシンボルマークを作成
レッドリボンやピンクリボンのようなシンボルを作り、ピンバッジを制作。
ピンバッジを協賛会社に販売してもらい、社会貢献活動として会社のイメージアップに活用してもらうとともに、購入した人のパラリンピックへの関心、参加意識を高めようというものでした。
2 「パラリンピックニュース」の収益化
パラリンピックニュースは、障害者団体用郵便料金(50gまでで8円)で発送できます。そこで、会員組織を持っていて、定期的に情報を会員に発送している団体をターゲットとして、発送費よりも割安な媒体費で、紙面(1ページ分)を提供。
例えば毎月100万通を発送しているとして、82円×100万×60%(広告郵便物割引40%適用)=492万円の発送費に対し、それ以下の媒体費なら、現状より経費が削減できるというわけです。
→250万人の信者を抱える某宗教団体が興味を示したり、それなりに収益化を実現。その後、2009年に同じようなことを考えた障害者団体が摘発され、「障害者郵便制度悪用事件」として社会問題に。その先駆けとなるグレーゾーンのビジネスモデルを展開していました。
3 パラリンピックカードの発行
大手信販系と提携して、クレジットカードを発行。購入ごとにポイントが加算され、それを募金にも使える(たぶんそんな機能が付いていたと思います)というものでした。
4 「シドニーパラリンピック名鑑2000」を発行
パラリンピックの認知度を高めるためのムック本を発行。実は全選手の名前と顔写真が掲載されており(まだ個人情報保護法案施行の前でした)、最低でもその選手と家族買ってくれるだろうという見込みでしたが、売れ行きはパッとしませんでした。
また、公式スポンサーの募集をしたところ、今はなき最大手の消費者金融会社から、いくらでも出すというオファーがありました。とはいえ、さすがにイメージが悪かったのでお断りをしています。
当時の私はその代表の方と、どんなツールが必要なのかを話ながら事業を推進していたのですが、すべての事業が道半ばの頃(名鑑は発行されました)、広告代理店をクビになってしまいました。
その後の日本パラリンピック株式会社の消息ですが、「一番弱い立場におられる方々を食い物にして金もうけをしている」と、国会で糾弾され、消滅。
万が一、日本パラリンピック株式会社の代表の懐に、怪しいお金が流れていたとしても、それ以上の寄付金が集められていれば、それはそれで、選手のためになったのに。